未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―7話・穢れの聖域―



奥へ奥へと進むにつれ、
多少なりとも整備された道から、獣が踏み固めただけの道へと変わってきた。
道は悪いが、慣れ親しんだ類のものであるから気にもしない。
軽快な足取りで、ただし途中道草を食いながら進んでいく。
「あ、あれなーに?」
プーレが、見慣れない草を見つけた。
地面にへばりつくような姿。新芽の方が、やや黄色みを帯びている。
「(アルムデラじゃないか。へぇ……こんな所にもあるんだね。
これは、とてもいい傷薬に使われるそうだよ。)」
アルムデラは深い森の中にだけある、貴重な薬草だ。
外傷に薬効があり、その効果はお墨付きである。
エクスポーションやエリクサーにも使われるとか。
「わ〜、すごいねぇ♪もってっちゃおっかぁ?」
むしりたくてうずうずしているエルンを、ロビンが必死に止めた。
「やーめーとーけって。
お前なあ、貴重な薬草むしるんじゃねえよ。
って、言ってるそばからパササお前もむしるなー!!」
考える事が、二人して一致していた。
性別と種族の両方が違っているというのに、
何でここまで行動と思考が似ているのだろう。
「テヘ★」
むしられた哀れなアルムデラを片手に、
パササは舌を出してごまかした。
「あのね……テヘ★っじゃないでしょ。」
もうつっこむ気力も取られたといわんばかりに、
プーレはがっくりとうなだれた。
「(まあ、むしっちゃったものはしょうがないね……。
二人とも、これ以上むしっちゃだめだよ。)」
貴重な薬草をあんまりむしったら、村の人に何といわれるかわからない。
そうでなくとも、あまり感心できないことだ。
『はーい。』
すでに一本むしった段階で気が済んでいたらしく、
別に文句を言うことも無かった。
「あ、こっちはなにかなー?」
また違うものを見つけたらしい。
人の手が入らない森にしかない珍しい物が、奥に行くにつれて姿を見せる。
だが、そのせいで全然歩みが進まない。
こんな調子で本当に聖水が見つかるのかと問われれば、
誰もが首を横に振るだろう。
「お〜ま〜えら〜……いい加減にしろよなほんとによぉ。」
もう付き合いきれないと言いたそうに、精神的に疲れきった声を漏らす。
言われた方はといえば、今度はど派手な芋虫をいじくり回していた。
驚いて逃げる相手を、木の枝でつついて面白がっているのだ。
「(よしなって……。)」
実はチョコボの癖に虫の類も食べるくろっちは、
可哀想だとはあえて言わない。代わりに彼はこう言った。
「(食べないものにちょっかい出しちゃだめだよ。
今は、おやつでもご飯でもないしね。
だからっておやつに取っとくのも無しだよ。)」
しっかり先手を打たれてしまったので、むくれつつも芋虫をいじる事をやめた。
かなり未練たらたらなようだ。
「つまんないノ〜。」
恨めしげに見ている間に、芋虫はさっさと茂みに逃走した。
あっという間である。
「……芋虫でも、恩返しすると思うかー?」
芋虫が逃げ込んだ茂みを眺めながら、妙な事をロビンがつぶやいた。
「しないと思う……。」
誰に対してのものか分からぬロビンの問いを、
プーレはぼやくような声で否定した。
「ところでさぁ、プーレ〜。」
その辺から引っこ抜いたギサールの野菜をいじりながら、
エルンがいきなり話を振ってきた。
「え、何?」
「プーレってさー、お兄ちゃん探してるんだよねぇ?」
このパーティで、今は皆知っているプーレの目的。
もはや聞かないでも良さそうな事を、あえてエルンは聞いてきた。
「そうだけど……。」
少々呆けかけながらも、とりあえず返事を返す。
「プーレのお兄ちゃんって、どんなの?」
「え、お兄ちゃん?」
そう言えば、探している兄の事は今まで一度も話した覚えが無い。
聞かれなかったから答えなかっただけなのだが。
「そーいえばそうだね〜。教えテ×2☆」
エルンの発言で、パササまで催促し始めた。
きらきら目を輝かされると、言わないといけないような気になってくる。
「う〜ん……いいよ。」
別に隠すほどのことでもない。
久しぶりに、兄の思い出を掘り起こすのも悪くは無いだろう。
歩きながら話をすることにした。
「ぼくのお兄ちゃんはね、とってもやさしかったんだ。
群れのみんなのために野菜をとってきたり、
けがした人のお世話してあげたりとかもしてたよ。」
うっすら黄緑がかった頭の羽の色が頭をよぎる。
今でもどこかの空の下で、優しい笑みを浮かべているのだろうか。
「へぇ〜。ほかにはないのぉ??」
まだまだ聞き足りないといわんばかりに、エルンやパササが楽しそうな目で見てくる。
なぜかは分からないが、プーレは悪い気がしない。
「あるよ。たとえば、ぼくがカゼを引いたときに、
薬草をさがしに行ってくれたこともあったんだ。お兄ちゃん、物知りだから。
ぼくもいろんなことを教えてもらったよ。」
チョコボはとても賢いことで有名だ。
長年伝えられてきた経験から、
ある草がある病気に聞くという事も多少なら知っている群れもあるらしい。
どうやら彼の兄は、弟に色々教え込んでいたようだ。
「だからプーレって物知りなんだネ〜。」
うらやましそうにパササが言った。
確かに、同じ年なのにずいぶんと知識の差がある。
「そーいえばくろっちも、
大分前に嫁さんもらった時に死ぬほど喜んでたっけな〜。」
ロビンが、しみじみとうなづきながら暴露した。
「(〜〜〜。どうして風邪の話からくろろの話に行くんだい!?)」
よっぽど恥ずかしいらしく、
くろっちが取り乱すという珍しい光景が繰り広げられた。
きっと、羽毛の下の地肌は真っ赤に染まっているのだろう。
「へ〜、お嫁さんくろろっていうんだ〜。ねーねー、聞かせテ〜☆」
ほんのり小悪魔っぽく笑いながら
「けちけちすんなぁ〜♪」
パササたちの追及を食らったくろっちは、本気であわてている。
「(だ、だめだって!ロビン、どうしてくれるんだい!!)」
「……そこまであわててると、なんだかぼくも気になってくるかも。」
さらに追い討ちをかけるプーレのつぶやき。
どんどんくろっちの怒りのボルテージが上昇していった。
「ほ〜れほ〜れ、お子様達も聞きたがってるぞ〜?」
ロビンが、ふざけてくろっちの前でぐるぐる指で円を描いている。
その瞬間だった。


ぷっつん。


くろっちの堪忍袋が、とうとう切れた。
「え?え?く、くろっちお兄ちゃん〜??」
無言で立つくろっちの背後に、めらめらと立ち上る赤い炎を見たような気がした。
ゆっくりと主人の方に近づく彼の様子に、ロビンの勘が働く。
「げ……お、おいくろっち!やめろ!く、くる……。」
「(うるさーい!!星になってろーー!!)」
助走をつけたくろっちの蹴りが、容赦なくロビンの体に叩き込まれる。
「ぎゃーーーーー!!!くろっち、おまえ〜〜〜ぇ〜ぇ〜ぇ〜……!!」
そして、ロビンはどこか遠くに飛んでいった。
台詞の後半、声が遠くなったのはそのせいだろう。
後には、一仕事し終えた後のような満足げな笑顔をたたえたくろっちと、
呆然として目が点になった子供3人だけしかいない。
「……ねー、大人ってサ〜。」
ロビンが飛んでいった方向を見つめながら、パササが言った。
「なーに?パササぁ……。」
エルンもまた、ぼ〜っとパササと同じ方向を見つめている。
勿論、見たところでロビンが見えるわけではない。
「強いね。」
飛ぶのが専門だからといって、普通の鳥の脚力であるわけが無かった。
空の星になったロビンがその証拠。
「うん、強いね……。」
引きつった顔で、プーレが空を仰いだ。
あんなことをされて、果たして生きているのか疑問である。
「(さて……馬鹿な主人は先に行ったみたいだし、僕らも行くよ。)」
そして、何事もなかったかのように一行は進んで行った。
ロビンがどうなったのか、こそこそ3人が話しながら。
(ね〜平気なほうに、なにかけるー?
あたしはねんざにポーション1こぉー♪)
声の大きさを抑えてはいるが、弾んだ声は明らかに楽しんでいる。
(ぼくね〜、さっきのくさ〜。プーレは??)
(大けがにギサールの野菜を1こかな。)




「いててててて……あ、木の上だ。おれってばラッキー♪」
あれだけ飛ばされていながら、ロビンは奇跡的にかすり傷だけですんでいた。
そうは言っても、あちこちぶつけて痛いことに変わりは無いが。
「ま、いいか……さっさと降りねーとな。」
上を見ると、いくつも折れた哀れな枝がある。
結構高い木に落ちたらしく、下を見ると地面が少し遠かった。
大体、地面まで3,4mくらいだろう。
とはいえ、小さい頃外で遊びまわった彼には大して問題にはならない。
このぐらいの木なら降りられそうだ。
「よろい着てっからな〜……折れねーよなあ?」
そういいつつ、下にぽいぽい剣と小手を放る。
少しでも軽くしておかないと、足をかけた瞬間にボキっと枝が折れるかもしれない。
昔、油断したばっかりに落ちて怪我した事もあったので、
がさつな彼もこれだけは気をつける。
「よっと。ん〜、鎧は邪魔だな、やっぱ。」
木が折れないかちょっと心配だったが、
鎧を着た大の男が足をかけても枝はびくともしない。
慣れた動作でひょいひょい降りていく。
「ふう、ここまで来たら飛び降りちまうってもいいよな。」
1,5m位のところから、ぽんと飛び降りる。
それから、手早く落とした物を身に着けた。
改めて辺りを見回すと、背後からひんやりとした空気が漂ってきた。
冷えた空気の元は、こんこんと湧き出る小さな泉だ。
「きれ〜な水だなー。ん、これってまさか……?」
そして触れようと水に手を伸ばした瞬間、
ロビンの頭の中でピーンと一筋の光が走った。
「……何かありやがるな、この水!」
水は底が透けるくらい澄んでいる。これが、求めている聖水には違いない。
だが、今のこの水がまとう気は―――瘴気。
“人間の分際で、ずいぶん察しがいいのぉ。
だが、気がついただけではわしに勝てんぞ……。”
突如、泉の中から何かが現れる。
半分崩れかけたような、スライムともゾンビともつかない半透明かつ不定形の生命体。
腐臭に近い独特の悪臭は、姿とあいまって見るものに嫌悪感を抱かせる。
吐き気さえもよおしそうだ。
「げー、そんなとこから出てくんじゃねーよ、この生ゴミゼリー!」
魔物がロビンめがけてのしかかろうとしたのをすばやく避けた。
飛び退りながら、思わず新種の罵詈雑言を口走る。
“生っ……。この礼儀知らずめが、
わしが礼儀についてとくと教えてやろうぞ!”
―やべ、怒らせちまった。
思わず自分の台詞に後悔する。
相手を挑発するのは、両刃の剣だとわかってはいるのだ。
だが、口の悪さと思った事をそのまま言う気性は、どうにもならない。
「べつにいらねーよ!」
冗談ではない。そう思ってロビンは舌打ちする。
得体の知れない相手と一人で戦うなど、避けられるものなら避けたかった。
勿論、子供たちを頼るつもりは毛頭ない。
だが、相棒であるくろっちが居ないのは痛い所だ。
―こんな目にあうんだったら、さっきおちょくんなきゃ良かったぜ……。
後悔しても、もう遅い。



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不定期更新を、数ヶ月ぶりに更新いたしました。
今回は前回と180度方向が違って、ほとんどふざけてます。(笑
で、お役立ち新植物も登場しています。
きっと忘れた頃にまた出てきますよ。(笑